火鉢を横に置いて暖を取りながら、座布団に正座をして縫い物をして、お婆ちゃんになった気分だとは笑う。
その横で眠そうな表情をしながらもを見つめる政宗は、じゃあ俺はお爺ちゃんか、こういう生活も将来的には悪くないとあくびをしながら言う。
でもには彼がお婆ちゃんの膝でお昼寝する猫にしか見えなかった。

「お爺ちゃんならお婆ちゃんを労わってお茶でも運んでくれないかなー…できた!!」
鋏で糸を切ると、出来た衣類の肩口を持って政宗に見せた。

「はんてんか。いいな、暖かそうじゃねえか。」
「布も私が選んだんだけど、似合うかなあ…」
「…似合うかなあ?自分のでも俺のでもねえのかよ?」
「見ればわかるでしょ、真っ赤じゃない。幸村さんに。」

政宗がぴくりと反応した。

「…なんであいつに。」
「佐助達部下と本気の腕相撲大会やってたら破れちゃったんだって。」
「なんでお前が。」
「再生不能なまでに破いて女中さんにも怒られたって佐助が愚痴言いに来たの。丁度小太郎ちゃんに縫ってあげてたところだったから。」
「買えばいいだろ…」
「手作りなら大切に使うだろうからって。」

むしろが作ってくれたものなど大切にし過ぎて額に入れて飾りそうだ。

「…ふうん。」
露骨に不快そうな顔で蹲って目を閉じる政宗が予想通りの反応で、手で口を覆って笑いをこらえる。
音を立てないようにそっと立ち上がり、箪笥に向かった。
そして青色の布で作ったはんてんを取り出し、背後から政宗に近づいた。

「はい!政宗さん!!」
「うお!?」
後ろから抱き着くようにしてはんてんをかけてあげると、素っ頓狂な声をだし、困惑した表情で振り返った。

「お前…」
「政宗さんの分も作ったよ!!っていっても、裁断はね…お店の人にしてもらったから…縫うのと綿詰めただけなんだけど…」
「そ…そうかよ。っても、大変じゃねえかこんなに。…頼んでもねえのに…。」
「嬉しそうな顔してますけど?」
「……うるさい。」

が起き上がって離れると、政宗も体を起こして袖を通す。

「…なかなか俺に合ってるじゃねえか。」
「うん!」
「ありがとうな。」

甘い空気が漂い、政宗がの手を取る。
小さく柔らかな手が自分たちの為に一所懸命働いてくれたことに感謝した。

…」
髪に唇を寄せると、ふふ、と笑いながら顎を引く。

「よしじゃあ政宗さん!!」
「何だ?」
「鍋だ!!!!!」
「何の話だ!?」










広間に着くと、小十郎が切った野菜を運んでいる。

「小十郎さん、なんとか間に合ったー!!」
「それは良かった。小太郎も嬉しそうに着ていたぞ。」
「最後の方指痛くなってね…一番小さい幸村さんの最後にしてよかった!」

に連れられて、何着かはんてんを運ぶのを手伝う政宗は口を半開きにして固まる。
城主の知らないところで宴会を開く準備万端になっていた。

「おいなんだこれ!?はんてん鍋パーリイって横断幕まで作って何だこれ!?」
「それは俺の手作りよお!!!!!」

政宗の問いに誇らしげに答えたのは中央にあぐらをかいて座る元親だった。

「何でお前が!!!!」
「パジャマパーティーってのが未来にはあるんだよ、政宗さん!!はい、元親には桃色のはんてんだよ〜」
「おう!すまねえな!!」
「我のは。」
「元就さんにはもちろん緑!」
「展開が読めたぞ勢揃いするんだなおい!!!」

政宗が怒鳴ったところで、外から激しい足音が聞こえてくる。
誰だと疑問に思うまでもなかった。

「この度は!!お招きいただきかたじけのうござる!!!!!!!!!」

満面の笑みで風呂敷に包まれた大量の荷物を背負った幸村の登場だった。

には、はんてんを新調して頂きなんとお礼を申してよいか…!!!」
を見つけるとすぐさま近づいてぺこぺこと頭を下げた。

「いいのいいの、それより、なんだかお荷物が…」
「土産でございます!!!」
「そんな、いいのに…」
「いえ、鍋の食材に是非足して頂きたかったこともあり…」

無邪気な笑顔で幸村が荷を解くき、出てきたものには冷や汗をかいた。

「団子でござる!!!!!!!!」

政宗は後方にいた佐助を思い切り睨みつけた。

「お、俺様の教育じゃないよ…」
首を何度も横に振る佐助にため息をつき、政宗が一歩前に出た。

「幸村…それは食後の楽しみならともかく鍋に入れるものでは…」
「我は餅を持ってきたぞ。」
「俺は魚!!」

瀬戸内の言葉が耳を通り抜け、理解するのに時間がかかった。

「餅?ああ…雑煮的な…」
「………。」
「何無言で、ス…と出してるんだよ!!うっすら餡の色見えてんだよ!!丸餅あぶり餅から草餅わらび餅までライナップ豊富だなっつーか俺に説明させるな!!!!」
「俺は鮭とーサザエとータコとーあとこれなんだっけか、ウミヘビ?」
「分かるの持って来いよ!!!!!!」
「やー、ごめんごめん遅れた!!」

呑気にやってきたのは慶次だった。
同じく荷物を持っているが、彼の家族には食に詳しいまつがいるから安心感がある。

「俺は肉持ってきたよ!!」
「おお…まともじゃねえか…!!」
「熊!!」
「熊かよー……」

惜しくて政宗はがっくりと項垂れた。
しかしここで拍手をして喜んだのはだった。

「はんてん闇鍋パーリイだ!!」
「無理やりすぎだろうが!!小十郎が許さねえぞ!!」

いつの間にかもオレンジ色のはんてんを着て、それは可愛いらしく政宗はそれ以上強く出れなかった。

「闇鍋なら俺もこれを出せるな…見ろ、南蛮の野菜らしいぞ。」
小十郎が取り出しのは懐かしすぎる、ザビーの顔をした野菜だった。
ぴくりと元就が反応したが、全員がそれには触れなかった。

「小十郎も賛成とか…もう勝ち目ねえな…」
「竜の旦那もしっかり着てんじゃん!!闇鍋になるとは思わなかったけど楽しまなきゃ〜」

くるり、と佐助が一回転すると、ラフな着物に迷彩色のはんてんを着てウインクをする。

囲炉裏の周囲に座布団が9つ並んで窮屈そうだったが、に腕を引かれてしかたなく座り込む。
小太郎も黒のはんてんを着ていつのまにやら座っていた。

目の前で良い匂いを漂わせる鍋を見て、政宗はoh…と唸るしかない。

「普通の鍋すりゃ絶対美味いのに…」
「魚介の出汁も入るんだからもっと美味くなるぜほら!!」

元親がぶつ切りにしたタコやサザエの身をどんどん入れていく横で元就がぽいぽいと餅を入れていく。
幸村はよりによってみたらし団子を入れ、慶次は炙ってきたらしい熊の肉を入れる。
小十郎も負けじと野菜を入れ、小太郎はキノコを入れていく。

「やーすんごい闇っぽいねー。大体入ったなら…」

佐助が手をすっとかざす。
すると蝋燭の火が消え、うっすら差し込む月明かりだけが頼りとなり、鍋の中がよく見えない。

「誰からいく?」

佐助が笑いながら言っていることなどは、声色から分かる。

「…私が行く!!」
「お、男らしいじゃねえの!!」

が膝立ちになって箸を構える。
隣にいた元親は頑張れよーとエールを送る。

、口に合わねば某が頂く故、安心して取ると…」
「旦那ァ〜それ間接きす、って言うんだよ知ってた?」
「きす…?」
「接吻のこと。」

の向かいにいた幸村は佐助の言葉を聞いて固まってしまう。
おそらく、破廉恥でござるとを助けることが出来ない無念さの間で困惑している。

「これにしよ〜…」
恐る恐るとった四角いものを口に運ぶ。

「!!」
「だ、大丈夫か…?」
元親の逆隣にいた政宗がの背を擦る。
「きのこだ!!小太郎ちゃんのきのこ!!おいしい!!」
「へえ、よかったな…」

佐助が小太郎の方を見ると、ぱああああと口元が嬉しそうに上がり、一瞬はっとして、下を向いてなにか悩んだ後、小さなすり鉢を取り出した。

「…そうか…そうか小太郎…よく分かった。」
「美味しいよーこれ、やみつきになりそうひゃは…ひゃははははははは!!なんか気分がハイ!!!!!楽しい!!!!!!!なんだこれタノシーねえ!!!!ひゃははは!!!!!
が怖いぞ佐助ェ!!!!!」
「はいはい小太郎早く!!早く薬調合ね!!毒茸じゃん!!!」

小太郎は必死に薬草をごりごりとすり潰し始めた。

「こ、怖いじゃねえか!!!毒染み出したりしねえのかこれ!?」
「大丈夫ということにしましょうぞ!!さあ、元親殿!!」
「俺かよ!!!!!」

ゴロンゴロン転がり出すに急ぎ小太郎が駆け寄って調合したての薬を無理やり飲ませる。
ゴフウ!といやな声がした後、は静かになった。

「…仕方ねえな…じゃあ…探りはしねえ一本釣りよお!!!!これだあああああ!!!!!」

元親は勢いよく箸を鍋に突っ込み、挟んだものを引き出した。
にょーんと伸びた。

「元就の餅だああああああ!!!!!!」
「しかもただの丸餅!?普通すぎるでしょー!!!!!」
佐助に突っ込まれた通り、あまりの普通っぷりに恥ずかしくなった元親は皆に背を向けて食べ始めた。

「普通に…普通に美味いじゃねえか…!!!!!」
「そうであろう。」
元就は臆することなく鍋を探り始めた。
そして取り出したものを口に運ぶ。

「ふん…感覚を研ぎ澄ませば分かるものよ。右目の野菜を当てることなど安易なオェ」
「南蛮野菜だ!!!!!!」
食べて悶絶したことのある慶次は敏感に気づき、口に手を添える元就に同情する。

「…安易よ。」
「は、吐いた方がいいって!!」
あくまで、何を言っている、これは狙ったものであると言いたげに鋭い眼光は崩さずにいた。

「ふ、風魔殿の番であるが…」
この調子で続けるのか疑問を持ちながら幸村が話し掛ける。
の介抱をしていた小太郎が振り向き立ち上がり、颯爽と鍋に近づくとひょいと何かを箸で取って食べる。
そしてまたのもとに戻っていった。

「ほお…なんと素晴らしい…家臣の鏡であるな…」
「…原因もあいつだけどねえ…」
そして小太郎の頬が膨らみ、もぎゅもぎゅ噛みしめているため、餅のどれかだろうと想像する。

「…某の番である。」
「旦那の番だねえ。」
「早く食え幸村…。」
ぐつぐつ煮だった鍋はなにやら暗い色になっているように思われる。
餡の色であろうか。

「……これを頂く。」
「だーいじょうぶ、旦那はこういう運強いよ。」
「そうか…?では…」
噛んだ瞬間、口の中で出汁のしみた柔らかい食感と野菜の甘みが広がる。
余計なものを入れる前に作っていた小十郎の野菜の普通の具材だ。

「美味い!!片倉殿の野菜!!大根である!!」
大きくガッツポーズをする幸村の隣で、佐助は良かったね〜、じゃあ俺様は白菜頂こう、と自然に具材を取る。

「夜目効かせてんじゃねえぞ!!」
「いやいや、事故事故。」
指を指して怒鳴る政宗は軽く流し、慶次に取るよう指で促す。

「俺は利が取ってきた熊肉食いたいねえ!!どれかな〜これかな〜」
四角いものを取り出すと、ふにゃりとしなる。
「キノコか熊だな。」
「………怖いな。」
「…大丈夫、私もう回復したよ…」

がのそりと起き上がり、小太郎から緑茶をもらって啜っていた。
「大丈夫じゃなかったよ…」
「キノコだったら次は私が介抱してあげるよ。」
「いやそれでも怖いの変わらないななんでだろ!?いいや…度胸だな!!よし!!」
ぱくりと食べると、熊だ!!と喜びの声を上げる。
「はは、変な味するけどまあいいや!!」
「…ちっ…」
が舌打ちした!?」
「はは、今のところと毛利だけだなあ。当たっちまったのは。」

爽やかに笑う小十郎を、元就が睨みつける。
「まあそう睨むな。そういうのを楽しむものだろう。」
小十郎はおたまを使って、汁も具も大量にすくい上げた。
「小十郎…」
「政宗様におかしなものが当たりませぬよう、減らしておきます。」
さも当然のように行う小十郎が、今のには眩しくて仕方ない。

「け、慶次ごめん…キノコ食えやこの野郎って思って…」
「そんな風に思ってたんだ!?いいっていいって…そうだよな、自分だけひどい目にあうなんて悔しいよな…!!」
急にしおらしくなったに慌てて慶次が駆け寄り、の頭を大きく撫でる。

それに少々嫉妬心を抱くも、小十郎に声を掛けた。
「大丈夫か。別に完食しろってルールはないぞ?」
「もちろん無理は致しません…餅が随分伸びてしまっているな。野菜も煮過ぎている…」
「………。」
「…これは…クリタケか。全く、調理法をきちんと考えてものを入れて欲しいな…。」
「……普通じゃねえか。っつーか普通のもんばっか取ってねえか小十郎。危ないもん残ってる気がするぞ…」

政宗は腕を組んで鍋を覗き見た。
徐々に汁も減ってきていて、火箸をもって炭をいじる。

「い、いえそのようなことは…あ、これ、は、肉か…」
「………。」

政宗も椀を持つ。
そして恐る恐るおたまで少量、すくう。

「…ま、政宗さん…」
「てめえがキノコ食って平気だったんだ。全く平気だっての…」

そう言い、具材を挟む。
餅のようだ。
そして一口食べると

まっずうううううううううう!!!!!!!!!!!!

毒とか南蛮野菜とかそれ以前に、政宗の美食の口には合わなかった。

「汁からして不味い!!!なんだこれ不味い!!!なんでてめえらこんなもん食えるんだよ!!!!!」
「政宗殿、食物をそのように不味い不味い申して無駄にしては勿体のうございます。」
「混ぜて勿体ないことしてんのは誰だったよ!!!!?」
「おー無くなった無くなった。んじゃあ明かり灯して、次は普通の鍋食おうぜ!!」
まるで何事も無かったかのように元親が鍋を変え、新たに美味そうな魚を大量に持ってきた。

「ah…?」
「え?」
も政宗も目をぱちくりさせ、てきぱきと用意される鍋をただ見つめていた。

「これからが本番だろ?」
元親は逆になぜそんなに驚いているのかが分からない様子だった。

「ごった煮の訳わからねえ料理の後に普通の鍋食べるとより一層美味しくなる…」
「どんな食生活なんだ!!!!!!!」

















■■■■■■■■
はんてんは着せたら可愛いんじゃないかと思って…(それだけ!!
闇鍋というお題で、主要メンバーで、「月明かりだけを頼りにお鍋を食べる」というものを頂きました!!
うちの主要メンバーにはまだ家康三成などは入ってないのですもうしわけない挑戦したい…!!!!
ありがとうございました!!