大木の前に立ち、ぽんぽん、と右手で叩く。
良い木だ、姉小路さんが好きそうだ、と思いつつ、前腕を付き、額を当てて目を閉じる。

「だーるーま、さーんが、ころんだ!!」
言い終わった瞬間振り返ると、小太郎が腕を組んで立っている。

「…………。」
「………………。」
「……………………。」
「…………………………。」
「小太郎ちゃん、ぜんっぜん動かない!!生命活動を疑うほどに動かない!!」

そしてまた木の方を向いて、目を閉じ、だ、と言った瞬間、肩に手がぽんと置かれる。

「わー!!スト…、あー!いない!!」
急ぎ振り返ると、小太郎の姿はない。
きょろきょろと見渡すが影も気配も風も無い。

「勝てる戦しろよー。」
その光景を廊下に胡座をかいて煙管を吸いながら政宗は眺める。
「暇だったんだもん…。」
「俺が相手してやろうか。」
「政宗さんも暇なの?」
「い、忙しい時間をてめえの娯楽のために割いてやってんだよ。」
「恩着せがましい!!」

そう言いつつ政宗は草履を履いてやる気満々だ。
背後に控えていた小十郎は、穏やかにうんうんと頷いていた。

「不安定な姿勢で止まったとしてもその場で微動だにせず保てることが出来れば体の芯がしっかりしているという証拠になりますな。」
「さ、さすが小十郎さん遊びとは捉えぬその真面目さ…!!」
「く、くそ…!気軽に出来なくなったじゃねえか…!!!」
「この小十郎も参加致します!!」
「小十郎さんが目を輝かせている!!」
「ま、負けられねえ…!!」
「平衡感覚に関しては負けられないというか!!」
「そして突如現れる佐助!!」

黒煙と共に好戦的な笑顔で佐助が現れた時は察する。

み、皆集まる…!!

「よーし!!じゃあだるまさんが転んだ日ノ本一でも決めようかー!!!」
「す、凄いイベントキター!!!!!」










佐助企画主催(勝手に)のだるまさんが転んだ大会は小田原城栄光門前で行われることになった。
氏政は茶を啜りながら、若者はええのう…と呟いていた。

「爺さん爺さんどうしよう私が鬼の役なんだけど責任重大じゃないかな!!」
「お主の判定ならば皆納得するであろう。風魔に判定員をさせても良いのではないか?」
「あああ爺さん天才だ!!!そうする!!」
「な、なぬ…天才じゃと…!!う、うむ、、饅頭をやるぞ…!」
「わーいありがとう!!」

桜の木の前で長椅子に座る氏政の隣に腰掛ける。
一緒に饅頭を頬張りながら、ルール説明をする佐助の言葉に耳を傾ける。

「…というわけで、鬼が振り向いた時に動いた人は脱落!」
「呼んだかァ!?」
「いや西海の鬼さんじゃなくって!!紛らわしい!!姫って呼ぶ!!姫さんね!!だから姫さんね!!姫さんに負担はかけない!誰かが姫さんに触れたら逃げる!姫さんが止まれって言ったら止まる!その時一番遠くに逃げれた人の勝ち!」
「忍は術を使うでないぞ!!」
「はーい元就さん承知してまーす!!何か質問は?」
「勝ったら何か下さると聞いたのですが何でしょうか?」
「はい明智さんが来るとか本当俺様予想外!!協賛最北端一揆衆より米10俵贈呈します!!」
「米欲しいぞ佐助えええええええ!!!」
「頑張ろうね旦那あ!!!」

騒がしっ!!とは思うが口にはしない事にした。

「最初に脱落だけは勘弁だな。ま、そんなことしねえが。」
「もちろんでございます、政宗様。」

政宗と小十郎の声が耳に入った佐助は説明不足があったことに気がつく。

「そうだ!最初の脱落者には罰が付くから頑張ってねー!!」
「罰とはなんだ、佐助。」
「かすがも参加とはねーやっぱ忍としての闘争心くすぐられるよねー。」
「話を逸らすな。」

ぱちん、という指を鳴らす音に皆が振り返る。
そこに控えるのは顔を楽しそうに歪ませる松永久秀の姿があった。

「最初に動いた者には爆撃とは如何か…?」
「しません!!」
「残念だ…。」
「えっ!?なんであんたも参戦なの!?」
「それがあまりに良き米俵であるのでな…。」
「米俵の質に感動したんだ!?」

は参加者が統率感なく入り乱れているので確認した。
政宗、小十郎、幸村、佐助、元親、元就、光秀、かすが、松永だ。
よくぞまあ集まったものだと感心する。

「はーい話を戻してー…罰は、天下のドS竹中半兵衛の関節剣…を鞭に持ち替えての公開処刑でーす。」
「大丈夫、殺さない程度にやるよ。」

佐助の背後からひょっこり顔を出す笑顔の半兵衛を見ては口に含んでいた茶を吹いた。

「酷すぎる!!」
「僕としては片倉くんを叩きたいなーねー君っ。」
「イカサマしませんよ!?」

瞬速での隣に座って手を肩に回す半兵衛に慌てて怒鳴る。

「あと僕にも米俵くれるんだろう?」
「はいはーい、ご協力代に1俵どーぞ。」
「秀吉も喜ぶよ。」

万歳して喜ぶ半兵衛は今日は完全オフで楽しんでいるようだ。

「はいはいじゃあ位置について!ほら…姫さん!栄光門へ!」
「うえー分かった分かった!私視力普通だから判定員は小太郎ちゃんが付きます!」

氏政に心配されつつ、は茶菓子も湯呑も置いて、栄光門へ走っていった。
も大変じゃのう…と背を見送ったあと、視線を戻すと、参加者全員が殺気立っていてびくりと肩を震わせる。

実は裏ルールが存在した。

動いての脱落はするわけがないと確信している勢が、姫の元に行かず誰かが触れるのを待ち圧倒的有利に逃げることを避けるためのルール。

に触れた人間には

誰にも邪魔されず一日と過ごす権利が発生する!!


「み、皆米俵欲しすぎであろう…そんなに世は飢饉なのかのう…?」
何も知らない氏政は首を傾げ、我が民だけはそういうことがないよう農業に力を入れようと政策を考え始めていた。



栄光門にたどり着いてくるりと振り返ると300mは離れていて仰天する。
皆の身体能力を考えるとこのくらいは無いと判断出来ないであろうが、もう動いたかどうかをが判定できるのはかなり近づいてからでないと不可能だろう。

隣に小太郎が現れ、忠勝に作ってもらったらしい拡声器をに渡すという時点でにはツッコミどころが満載だったが今は我慢することにした。
のそのそと歩きながら、氏政が木の枝で地に一本の線を引いて、スタート位置を決めていた。
氏政が手を上げて皆の立ち位置を確認したのを合図に、も栄光門を向いて目を閉じる。

「いきます!だるまさんがころんだ!!!!」

皆の勢いが分からないので最初は早口で叫び振り返る。

「な、なんだと…!?」

少しは誰かがタッチするのを待って自分はあまり進まずさっさと逃げる策をとる人もいるだろうと思ったが、皆僅差で迫って来ていてかなり怖い。

「お、おう、どう?小太郎ちゃん…?」
「………。」
小太郎は皆を凝視するが動く気配がないのでその場に留まっていた。

動く人がいたら飛び出すだろうと思い、はまた栄光門を向く。
見た限りではやはりかすが、佐助の忍組が一歩前に出ている様に見えるが、幸村が佐助の髪を掴んで邪魔して仲間割れしていたのが少々気になったが進めることにする。

「だーるまさんがころんだ!!」

先程よりやや長めに間を取り振り返ると、全員がもう手前100m以内に迫っていては恐怖を感じる。
なぜ正攻法ばかりなのだ松永様や光秀さんまで!!と疑問でいっぱいだった。

そして小十郎は相変わらず政宗の背後を陣取っていたが、明らかに刀に手をかけて隣の松永に向かって抜刀する気満々だった。
何があったのだあのだるまさんがころんだの一瞬で。

「……。」
しかし恐ろしい程ぴたりと止まっている。

かすがもなぜか口にクナイを咥えて佐助の方を向いていた。
元親と元就などどちらかがクロスカウンターしたようで互の拳が相手の頬に当たっていた。
幸村は佐助の肩に手を置いているし、光秀は鎌を構えていてあれもしかしてその鎌で私にタッチしませんよね?と嫌な汗が出る。

「げ、元気だな皆。」

見当違いの感想を述べたあと、また栄光門に振り向く。

「だるまさんが!」

そう言った瞬間、の両肩に背中に手の感触。
急いで振り向き、止まれー!!と叫ぶ。

「誰だった!?」
一番に声を上げたのは政宗だった。

「氏政殿!風魔殿!!誰が一番にに触れていた!?」
そして氏政と小太郎の姿を交互に見ながら、幸村が問う。

「ほ?一番に触れたものか…?わしは見ておらぬが…風魔?」
「…………。」
「えっ?あれ…ちょっと…?」

止まらず皆わらわらと動いていて、これでは判定一番も最下位も決められなくなってしまった。

「風魔、私だったね?」
「!!」
「ちょっと松永さん!脅さないの!!」
「とりあえず我は長曾我部よりは先に触れていた。」
「元就ィ!!いい加減なことを言うんじゃねえ!!」
「忍の私に決まっているだろう!!」
「俺だって忍だよかすが!」
「はあ!?俺に決まってんだろう!!」
「政宗殿はといつも一緒であろう!自重されよ!!」
「この場の全員私が殺せば私が一番ですね?」
「光秀さん物騒!!小太郎ちゃん…ええと、どうだったの?」
「……。」

小太郎が一点を見つめているのでそれを追う。
そういえば先程からまだ肩に人肌が感じられていた。

「よっ!なーにしてんの!?」
の肩に手を置いて、不思議そうに周囲を見回す慶次の姿があった。

「慶次…あれ、もしかして慶次が一番に私に?」
「……。」

小太郎がこくりと頷く。

「え?何?」
「ちょ、風来坊は参加してないじゃん!!」
「なんか楽しそうだなあ!仲間に入れてよ!」
「いいよ、慶次君。」
「え?半兵衛?」

いつの間にやら半兵衛が慶次の背後を取る。
そしては反射的に身を翻し、ごめんね慶次…と呟いた。

「君が勝者であり最下位だよ!!!」
「ええええええ何でええええいてええええええ!!!!!」

ぶわっちこーんと響きを立て、半兵衛の振るう鞭が慶次の尻に直撃する。

「いいぞ半兵衛!!しばらく立てないようにしろ!」
「なんなのなんなの独眼竜酷過ぎるんだけど!!いった!!痛い!!」
「ふうん…慶次君もそれなりには鍛えてるようだね…もっと強くかな!?こうかな!?」
「うわー何だよ!!いってえええええ!!」

四つん這いになった慶次の尻に半兵衛は足を置き、背中に鞭を叩きつける。

「…何か懐かしさを感じるな…。」
松永は興味深そうに座り込んで、慶次の涙目の表情を観察する。
「ま、松永さん、あんまり見ないであげてくださいよ…。」
「ならば君が目を潤ませる姿を見せてくれたまえよ。」
「嫌ですよ!!」
「その男にはその姿勢でいるのが一番ですよさん。ところで私でしたら快楽により流す涙を教えて差し上げますが…。」

光秀に顎を掴まれ顔を持ち上げられるが、光秀の背後に髪を乱した小十郎の姿が見える。

「おい貴様ら…勝手なことをしてるんじゃねえ…!!」
「そうだそうだ、おう、折角だしこのまま航海に行かねえか!!今日は大漁の気がするぜ!!」
「やかましい。、我と周囲を散策するぞ。」
ー氏政殿のお団子美味しいでござるー!!!」
「全く、配慮のない連中だ。、謙信様への土産物を見立てて欲しいのだが。」

次々と声を掛けられ、の首が忙しい。

「お、おう…皆…いつも通りだな!!」
「俺はいつも通りじゃないよ助けて!!!!」

慶次の叫びは虚しく小田原に響いていた。


























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罰ゲーム有りなので全員真剣な「THE だるまさんがころんだ」というリクを頂きました!
全員に光秀と松永様もいれちゃったてへ!!
しかし個人的に書いてて楽しかったのは半兵衛ですうん多分気づかれてる。
恋愛要素なしのドタバタは楽しいでおす!!!そして先に謝ろうすみません!!

リクありがとうございました!!!